土佐のまんまる【柚子の知恵/高知のうまい飯】

まっこと、あの人は酢が効いちゅう。しゃきっとした性格まで「酢」に例えるほど、酢の文化深き土佐の食卓である。  果実酢の種類も多く、酢みかんと呼んで大事にする。初夏のぶしゅかん、秋の柚子、冬のだいだい、直七と旬に合わせて使い分ける。その果実酢の中でも土佐人はことのほか柚子酢を好む。馬路村、北川村、安芸市、大豊町、香美市物部、高知市土佐山などの山々では柚子栽培が盛んで生産量は日本一。寿司をつくるにも、酢物にするにも「とにかく、柚子酢がなけりゃ始まらん」県民なのだ。

その代表的な柚子の産地といえば、馬路村。ゆずドリンク「ごっくん馬路村」やぽん酢しょうゆ「ゆずの村」などの柚子加工商品で全国区になっている「馬路村農協」のある村だ。村には古くから自生の柚子の木があり、秋にはその実を搾り、自家用の柚子酢を作りおきする。乾一枝さん(72歳)宅では、その柚子酢を仏間の床下に大事に保存するのが昔からの習わし。「適度に湿度もあって年中涼しい場所。ご先祖様に柚子の番をして貰いよります」と、畳をひょいと持ち上げた。

乾家では、一升瓶にして年間12本ほどの実生の柚子酢を搾り、うち8本が自家用。あとは親戚や友人に配るのが恒例だ。「食台の上には必ず、小瓶に入れて柚子酢を置いちゃある。刺身や焼き魚にもかけるし、きゅうりやなすを揉んでも、ちょっと物足らんなと思うとかけて食べる。柚子の花が咲く頃は花を味噌汁に入れる。私ら、柚子のない生活は考えられません」。花が咲けば花柚子を食し、青柚子の頃は皮をおろして使う。青柚子の酢はきついので酢の物や刺身向き。黄柚子となり、酢の量も多くなった収穫の頃はちょうど秋の神祭で、柚子酢を効かせて魚の姿寿司や田舎寿司をつくる。

「鰹のタタキもそうやけんど、鮎やサバの姿寿司を作る時も必ず柚子酢を使う。魚の生臭さを消すには他の酢ではいかん。けんど、とりだちの新しい酢は塩が馴染まん」。酢をかけて魚が白っぽくなることを「酢にかまれる」という。酢を搾った後の皮は醤油の実にきざみ込んだり、柚子味噌に入れる。タネは化粧水にする。柚子酢には塩を入れて保存するが、無塩の柚子酢は砂糖、はちみつなどを加えて濃縮ジュースにする。「古くなった柚子酢は外へ置いちょくと便利。茶の葉を揉んだり、草むしりをして手や指先が黒くなった時に柚子酢で洗うときれいに落ちる」のだそう。柚子の村に昔から伝わる柚子の知恵である。「今日は柚子酢のにおいがええきに、うまい寿司になったろう」と、お父さんが台所を覗きに来た。

全国人気の馬路村農協ぽん酢しょうゆ「ゆずの村」ほか、高知県内にはさまざまな産地で作られたポン酢がたくさんある。いかに土佐人が柚子好きかがお分かりだろう。スーパーや産直市場、土産店などで買える。


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