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豆腐の角に頭をぶつけるとコブができるとか、豆腐を荒縄で縛って提げて帰ったとか、土佐では昔から笑い話になるような堅い豆腐があった。今も土佐の田舎豆腐は堅めが身上。まさかコブはできないまでも、ぴんと角立つ島岡家の自家豆腐である。無農薬の地元産、四万十大豆で作ったできたて、ぬくぬくのまさに地豆腐。醤油を垂らすももったいない。
そもそも、豆腐が土佐に伝わったのは十六世紀末のこと。長宗我部元親が朝鮮の役から帰国の際、朝鮮の武将を連れ帰ったことに始まる。昭和の初め頃まではハレの食で、めったに食べられなかった。
大豆は、ねむの木の花が咲き始める7月初旬、田畑の畦に植える。「昔はまわりの自然環境で目安を知った。今は地球温暖化でねむの木をアテにしてもいかんなったけんど、新鮮な地元の大豆で豆腐を作るのが本来の姿やないろうかねえ」と、四万十町窪川の島岡和子さん(73歳)。
集落の仲間と自家栽培の大豆で納豆を作っている。その作業の合間に、こうして自家用の豆腐を作るのだそうだ。かつて、日本の母さんたちは当たり前のこととして大豆で味噌や醤油を造った。その姿が豆腐のうまい風景の中にあるという。

豆腐作りは前日から大豆を一晩、水に浸けてふやかすことから始まる。それを砕き、水を足し、鍋で気長く沸かす。「2回ほど沸騰させると、香ばしい豆腐になる」。その際に気をつけるのは焦がさぬように大きな火で炊かないこと。それをさらし木綿の袋に入れてしぼったのが豆乳。これを再び火にかけ、沸いたら土佐の海のにがりを入れ、木型に流し込んで固まるのを待つ。

にがりを入れるところからが長年の経験と勘。その入れ塩梅で豆腐が堅くもやわらかくもなれば、うまさも左右する。重しを乗せ、水を出す。こうして半日がかりで田舎豆腐ができあがる。 地大豆と地のにがりで作ったぬくぬくの豆腐は弾力があり、ありのままの素朴な大豆の香りと味がする。醤油をかけると、さらに大豆の甘みが引き立つ。できたてのおからもいただく。うまい豆腐はおからまで風味も豊か。大豆の鮮度がもの言う地豆腐である。
「私ら、畑でとれたものをすぐに食べる暮らしがあたりまえ。都会の人には申し訳ないというか、気の毒な気がするわけよ」と言いながら、食べる地豆腐のこれまたうまいこと。土佐の口福な日常ここにあり。
地豆腐には地元のにがりを使う。
四万十町では興津、大正などで天日塩づくりが行なわれている。
海水を太陽と風で乾かし、
結晶させ、脱水した時に出るのがにがり。
にがりの塩梅でうまさが決まる。
郷土料理 :鰹土佐の風土と土佐人気質に紡がれた伝統の味 |
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