灰汁は桑の木の木灰でなけりゃいかん

高知の山のこんにゃくは、こちこち、きりきりとうまい。吾北、大豊、土佐山、池川など、あちらこちらの山里では、おばちゃんたちが畑で育てた生芋からこんにゃくを作っている。坊主とこんにゃくは田舎がよいとはよく言ったものだ。

 大豊町葛原。薪の煙りもちょいと雲になりそうな標高500mの山の一軒家で、宮内公恵さん(77歳)は生芋と山の湧き水と木灰だけで昔ながらのこんにゃくを作る。「灰汁は桑の木の木灰でなけりゃいかん。樫や楢の木の灰汁よりずっとおいしい」という。  桑の木は火力も強く、火持ちもよい。その薪でこんにゃく芋を炊き、残った木灰は天然の凝固剤となる。宮内さん曰く、「樫の木の灰はきつくて、こんにゃくの味も違ってくる」。山の人は、その灰の味まで見分けていたというから舌を巻く。

こんにゃく芋は春先に植え込み、10月頃に収穫する。芋は「干せば干すほど、ええこんにゃくになる」という。  そのこんにゃく作りは一日がかり。5時間ほど薪をくべながら芋を炊き、皮を剥ぐ。それをミキサーで粉砕して、湯こぶりをしてこねていく。「昔は臼で搗いてこしらえよった。ミキサーができてラクになったけんど、そりゃ搗いた方がおいしいねえ」

木しゃもじを立ててくっつかなくなったら灰汁を入れ、手で丸めていく。「こんにゃくは撫でちゃったら、つやつやにならあね」。丸めたら、くらくら沸いた大鍋に入れ、また半日がかりで煮立てる。薪をくべながら、ゆっくりと出来上がるのを待つ。急いだら急いだ味のこんにゃくになる。  

茹で上がったこんにゃくは黒く、見るからにうまげなこと。どこか安堵感のようなものがある。宮内さんの薦めに従い、ぬくぬくをちぎって生姜醤油で食べてみる。灰汁のせいか、ややくせがあるが、このくせが本当のこんにゃくのうまさなのだという。かしかしするほど堅くなく、こちこちと弾力があり、やわらかくもある。煮ても炒めても味が馴染みやすく、堅くならない。
それにしても、その山こんにゃくはなんとも宮内さん似。おばやんが笑えば、 掌の中でこんにゃくも一緒にほたほた、ぷるぷる、よく笑う。


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