土佐のまんまる【高知は鰹/高知のうまい飯】

鰹の年間消費量はダントツの全国第一位。昔から鰹の國を名乗るにたがわず、鰹好きの土佐人である。「なぜか、鰹は毎日食べても飽きんがよねえ」と林勇作さん。江戸時代から続く鰹のまち中土佐町役場の元職員。水産商工課時代に「久礼の男は鰹ばぁ、おろせにゃいかん」と、近所の鍛冶屋で自前で作ったという鰹包丁を手に、今も自宅の炊事場や庭で鰹を料理する。

今日の鰹は土佐沖で朝釣りした約3キロの上物。頭を落としたら、尾を持って宙に吊り下げたまま「土佐切り」にし、3枚におろす。鰹の鮮度を落とさない早切りの技として昔から伝わる方法だ。それを刺身にし、タタキにし、チチコと呼ばれる心臓は生姜と煮付け、脂ののった腹部分のハランボは塩焼きにする。内臓は塩辛にし、アラは「わかし」という汁ものにしたり、煮炊きに使う。
その釣りたての鰹をびり≠ニかぐり≠ニ言い、ぐりぐりした歯ごたえがあるので、刺身にする場合は皮付きのまま薄く切るほうが断然うまい。おろした後、鰹の身が少し縮むのは新鮮な証拠だ。

「さあ、こぢゃんと燻るぜよ」。稲藁に火をつけたら、鰹の背身、腹身をサスにのせ、まず、もおもおと上がる煙で鰹全体を包み込むように燻していく。火が上がったら一番火力の強いところで一気に炙る。「手も髪の毛も焦げるばぁ焼かにゃいかん」。タタキのうまいへたは、この焼き加減で決まる。

ところで、タタキのルーツについては諸説あるが、林さんが久礼の古老に聞いた話によると、その昔、船上でカシキが誤ってナマの鰹をかまどの火の中に落としたのを年寄りが勿体ないと 思って食べたところ、ちょうどの焼け具合でおいしかったので食べるようになったという。偶然のできごとから船上で生まれたタタキが幕末までに改良されつつ岡にも広まり、現在のタタキになったのではないかというのが林さんの推察だ。

さて、その焼き上がりはほんの数分、皮から2〜3ミリほど内側に火が通ったぐらいがベスト。「焼き上がりをすぐに分厚く切って、ぬくぬくのタタキをニンニク芋をかじりもって食べるのが久礼流よ」と林さん。好みで天日塩、醤油で食べる。その大きな身切れを口いっぱいにほおばると、燻した藁の風味とともに鰹の旨味が広がる。これに生ニンニクのぴりっとした辛みが混ざってまた妙味を醸すわけで、こたえられない。なぜ鰹にニンニクなのかの理由がわかる。
「鰹に限らず、魚は金気と水気を嫌うので、久礼では焼いたタタキを氷水にも浸けんし、酢も使わん」。
やっぱり、うまい鰹の食べ方は地元の日常に習うがよろしい。

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