土佐のまんまる【鮎の食べ方/高知のうまい飯】

天然のアユは美人だ、という。「ほら、肌のきめが細かくて、鼻がつんとしちゅうでしょう?」。高橋勇夫さんにそう言われて、しげしげと放流アユと顔を見比べてみれば、なるほど確かに違う。 高橋さんはアユの研究者。全国の川に潜り、年間10万匹のアユの生態を観察するという人はアユ釣りもまた、プロ級の腕前だ。

「高知の川のアユは抜群にうまい。もし、県内のアユで平均点を出すことができるとしたら、間違いなく日本一だと思いますね」という。
その清流の中でも、高橋さんが「お客様用のアユはここで釣る」というのは、高知県東部の安田川。毎年、全国の川からエントリーされた鮎を一堂に集めて味を審査する高知県友釣連盟主催の「清流めぐり利き鮎会」で過去2回、グランプリに輝いている。  友釣りとは、縄張りを持っているアユの近くにおとりのアユを泳がせて怒らせ、体当たりさせて掛け針にかけるというもので、これが面白い。川ごとにアユの味も違えば、釣る楽しみ方も違う。ちなみに放流から1ヶ月以上経てば、天然アユと放流アユとの味の違いはほとんどなくなるそうだ。

釣ったばかりの新鮮な鮎はスイカのにおいがする。その鮮度を味わうのが「背ごし」。小さめのアユを選び、内臓を取り除いて骨付きのまま薄く筒切りにする。これをわさび醤油で食べる。歯ざわりがよく、甘みがあって川の味がする。
アユの塩焼きは頭からぱりっと食べる。きれいな川のアユは身もほくほく、ほろっとしたうまさ。ワタはもちろん、骨まで残さずに食べる。苦みと甘みが香魚と呼ばれるアユの身上。高橋家では土佐備長炭を熾した七輪のまわりに串を立て、遠火の直火でゆっくり1時間ほどかけて焼いていく。背中から腹、もう一度背中の順に焼くと、水分がうまく抜けて香ばしくなる。

焼き上げる際、内側にアルミ箔を貼った段ボールをかぶせて蒸し焼きにするのが高橋流。10年がかりで辿り着いたというアユ博士オリジナルの焼き方だ。おいしく食べる努力をするのはアユに対する礼儀というもの。晩ご飯に間に合う距離に清流がいくつも流れているという幸せ。


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