土佐のまんまる【居酒屋の愉しみ/高知のうまい飯】

とりあえずビールか、いきなり、酒。そして刺身を注文するのが、土佐の居酒屋での流儀。酒の肴は、酒をうまくするためのもの。刺身を待つ間、ドロメやチャンバラ貝などで、まずは軽くひっかける。  
黒潮沖ゆく高知では、あちらこちらの港や漁船と直結している居酒屋も多く、それこそ店先まで旬魚が走ってくる。路地裏の小さな店に至るまで鮮度とうまさはハズレることはない。土佐には素材そのもののよさをズバリ味わう面白さがある。

中でも土佐人がこよなく愛するのが鰹のタタキ。観光客のためではなく、味にうるさい地元の人たちのために用意された鰹だからうまくないわけがない。店ごとに豪快に藁焼きにし、厚切りで食べる。
「薄切りのぺらっとしたタタキはいかん」。最近は炙ってすぐの鰹を焼き切りにし、天日塩を振って食べる「塩タタキ」が流行。鰹のうまみがよくわかる。

初鰹は刺身にして新ニンニクと醤油で食べる方がうまく、夏のメジカ(マルソウダガツオ)の新子はブシュカンと食べるのが旬の合い口。冬のクエは鍋にする。店のおやじは土佐の旬を実にうまく皿に盛る。そのうんちくも肴になる。
それもこれも、土佐の地酒がうまいから。鰹やマグロ、サバなど太平洋側でとれる魚には辛口の酒が合うそうで、土佐は概ね、淡麗辛口。「なんぼでも飲める」というのが酒飲みの酒評だ。

杯は面倒だというコップ党も多く、表面張力すれすれに注がれた酒をこぼさず飲むという芸当も身につけている。飲みながら熱く議論を戦わすのも土佐人の習性で、ついつい酒のピッチもあがる。「あの人はなんぼ飲んでも狂わん」というのが、土佐では酒飲みに対する最大の賛辞で、たくさん飲ませるくせに酔わないことを誉めるのだから、どうもつじつまが合わない。  
「まあ、細かいことはええき。かまん、かまん」。一人でちくちくやるも、仲間とがんがらやるも、また楽し。居酒屋に今夜も土佐の夜、来たる。


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